日本でも最近アレルギーを持つ子が増えてきているので、アレルギーに対する認識に変化があるように見受けられます。しかし、ピーナッツアレルギーの危険性に関しては、アメリカと比べてまだそこまで浸透していないと感じることがあります。
私自身もピーナッツアレルギーの子供を持ち、学校では毎年医者からのアレルギー反応が起こった時の治療薬・処方に関する手紙を提出しなくてはいけませんし、子供も高価な薬を携帯していなくてはいけません。
このように、アメリカでピーナッツアレルギーの子供を持つというのは、精心的にも経済的にも負担がかかります。
現代ではピーナッツアレルギーは治らないとされています。しかし、そのようなアレルギーを治療するかもしれない、もしくはアレルギー反応を軽減する治療薬がでてくるというニュースがありました。
以下は、2019年9月13日のニューヨークタイムズ(New York Times)からの記事(For Children with Peanut Allergies, F.D.A Experts Recommend a New Treatment)の要約です。
ピーナッツアレルギー
アメリカでは約120万人の子供がピーナッツアレルギーを持っています。Palforziaという新しい薬はアレルギー自体を治すわけではありませんが、アナフィラキシーショックなどの命に関わるアレルギー症状を軽減することができるとされています。
アナフィラキシーショックとは、アレルゲンとの接触で血圧の低下や呼吸困難、また意識障害などを引き起こす急性の生理過敏反応のことです。
また、他の食物アレルギーと違い、成長するにつれてアレルギーが治ることはなく、一生の間ピーナッツや、ピーナッツオイル、またピーナッツが入っているであろうと考えられる食品を避けて生きていかなくてはいけません。
治療薬について
アメリカでは、市場に出る薬はFDAという機関に認可を受ける必要があります。
FDAとはFood and Drug Administrationのことで、アメリカ食品医薬品局という、医療品規制や食の安全を責務としているアメリカ政府の機関です。
このFDAが、9月13日の諮問委員会でアイミューン(Aimmune Therapeutics)というカリフォルニア州に本社のあるバイオテクノロジーの会社によって開発されたPalforziaというアレルゲン免疫療法の薬の認可を推薦したようです。
この薬の目的は、アレルギー自体を治癒することではなく、少量のピーナッツよって命に関わるアレルギー反応のリスクを少なくするためのものです。
現在において、アレルギー反応を回避するのはピーナッツを避けるというのが唯一の方法で、ピーナッツ関連食品が多い現代のアメリカ社会において、子供のためにピーナッツが全くないという環境を探すのはその家族にとって大変な労力とお金がかかります。
ですので、この新薬は重度のアレルギー反応を持つ子供の家族の不安や恐怖を軽減するということもできます。
治療方法
この新しい薬は、誤ってピーナッツに接触、もしくは食べた後のアナフィラキシーなどのアレルギー反応の発生率と重症度を軽減するための、アレルゲン免疫療法の経口薬です。2粒のピーナッツを安全に食べられることをゴールに、6ヵ月にわたり、少量のピーナッツのタンパク質を与えていきます。
与えられる治療薬は注意深く計量され、医師の監視の下少しずつ量を増やしていくようです。
ピーナッツアレルギーの子供達を治療する医師達は、新薬に肯定的な見方をしているものの、治療を受ける全ての子供達に対して良い結果が期待できるわけでもなく、治療方法は人によって違うので難しいという見方をしているのも確かです。
例えば、治療中に過敏なアレルギー反応を誘発する副作用もあるとのことで、5人に1人は激しい副作用のために、治療を中止になりました。そして、14%の被験者が過剰なアレルギー反応を示し、これは治療を受けていない被験者グループの倍の比率になっています。
実験の方法
新薬に関する実験は、去年のThe New England Journal of Medicineに掲載されました。
多くの被験者は4歳から17歳で、実験に参加した時には、ピーナッツに対して重度のアレルギー反応を持っていました。一粒の3分の1の量かそれ以下でも重度の反応を示していたようです。
実験では、ピーナッツの粉末が使われ、厳重に計量され、簡単に開けて食事に混ぜやすいように、様々の量がカプセルか小袋に入れて被験者が使いやすいようにします。
最初は3ミリグラムからで、徐々に1粒のピーナッツに値する300ミリグラムまで6か月間をかけて増加していきます。その後に最終段階に与えられた量と同じ量の治療をさらに6ヵ月続けます。
また耐性を保つために、その後も無期限でその同じ量を飲み続ける必要がある場合もあるとしています。
そして、この新薬の会社はこの実験に参加してくれた約1100人の患者に対し、今後も続けて治療の効果を長期にわたって調べていくと報告しています。
結果
上記のThe New England Journal of Medicineよると、372人の治療を受けた子供の3分の2が、ピーナッツ2粒分である600ミリグラムのピーナッツのタンパク質を、アレルギー反応を起こすことなく摂取することができるようになったと報告しています。
そしてプラシーボ(偽薬)を与えられた124人の子供の4%だけが同じ量のピーナッツのタンパク質に対して反応を起こすことなく摂取することができたようです。
また、何人かの治療を受けた子供は好酸球性食道炎という、アレルギー反応によっておこる食道の炎症を起こしたと報告しています。
問題点
何人かの専門家はこの治療薬の長期にわたる安全性の確保とその効果についての疑問を公聴会で質問していました。
National Center for Health Researchの上級研究員のニーナ ゼルデス(Nina Zeldes)は、これまでのこの治療薬の被験者は主に白人なので、他の人種の被験者がどのように反応するかは不明だし、また長い治療期間による影響もはっきりしていないと指摘しています。
彼女は、この治療薬は最初のピーナッツアレルギーの治療薬ですので、もし解明されていない疑問点があるにも関わらず認可されてしまえば、これから出てくる食物アレルギーの先例を作ってしまうと警告しています。
また他の検査員は、この治療薬は一定の効果はあるが、プラシーボを与えられた被験者と比較して、治療薬を与えられた被験者のグループのほうが、治療中止率、全身性アレルギー反応、また好酸球性食道炎の発生率が高いことに留意しています。
これらの専門家はFDAに対して、もう少しリスクに関しての研究データを要求するように促しています。
審議中の課題(リスク管理対策)
- FDAは、Aimmuneに対してアレルギー治療薬のエピネフリン(エピペン:Epinephrine)を携帯する患者にだけ治療薬を処方するという決まりを条件にしています。
- 最初の経口治療はアレルギー反応に対処できる病院で行うべきと付け加えています。
- 患者が適切な容量のみを受け取ることのできるようにパッケージを設計することとしています。
- 治療薬の箱には、ピーナッツアレルギーの治療薬であることを示す警告文が明記されています。このことから、いくらこの治療薬を処方されていても、その期間中もしくはその後もピーナッツへの用心は必要ということが理解できます
ピーナッツアレルギーを持った子供の実例
この薬の公聴会がメリーランド州で行われ、多くのピーナッツアレルギーの子供とその家族が参加して、この治療薬の認可の必要性を訴えました。
その中で、このAimmuneの治験に参加した重度のピーナッツアレルギーを持っている8歳の子供は、学校の昼食ではいつも他の子供達と違うテーブルで食べる必要があり、親戚と挨拶の抱擁(ハグ)をする時もピーナッツを食べていないかの確認をしてからの必要があると発言しました。
アメリカでは多くの子供がピーナッツバターのサンドイッチやピーナッツの入ったクッキーなどを昼食に持ってくるので、ピーナッツアレルギーの子供達専用のテーブルがあります。
この子も、いつもそこに座って昼食を取っており、その母親は、昼食の時はいつも2人で食べているとのことです。他の友達は20人ほどで食べているのに、自分だけ違うテーブルに座る必要があるし、また友達の誕生日会に行っても、ケーキが食べられなかったり、お菓子が食べられなかったりということが多々あるとのことで、可哀想だと言っています。
また、16歳の高校生の女の子は、スタンフォード大学で、初期の経口治療薬を受ける10歳まで、ピーナッツや乳製品、またその他多くの食品にアレルギーがあったと公聴会で発表しました。
しかし、現在彼女はなんでも食べることが可能で、毎朝学校の前にピーナッツバターサンドイッチを食べているとのことです。
彼女は、治療薬を受ける前は、誰の家にも行くことは出来なかったし、何か解らない食べ物の屑も触ることができなかったと言います。その少しの屑に反応して命を落とすかもしれないからです。あるとき、牛乳がこぼれて手に付着したときにアナフィラキシーショックを発症して、命を落とす寸前の時もあったと言っていました。
そして、この薬の重要性を訴え、全ての子供がこの治療を受けるべきと主張しました。
まとめ
ピーナッツアレルギーの子供を持つ親にとって、ピーナッツアレルギーを治療できる薬というのは夢のような話だと思います。
私達の家族もそうでしたが、長男がピーナッツアレルギーを持っていると分ったのは、彼が2歳の時に食べたピーナッツへのアナフィラキシーショックからでした。
その時は運よく、私も妻も子供といましたので、動揺はしたもののすぐに救急病院に連れていき事なきを得ましたが、それ以来それがトラウマのようになっており、非常にピーナッツに関して敏感になっています。
今は大分大きくなって、彼自身もピーナッツアレルギーのことを理解しているので、むやみにお菓子を食べたりしないですし、常に原材料名を聞いたり、パッケージで確認していますが、彼が小さいときは非常に心配しました。
アメリカではピーナッツのおやつが主流ですので、公園とかでも子供達が食べています。ピーナッツバターが付いた手で触った遊具に長男が触ると心配なのでいつも気を配っていたのを覚えています。
また、医者にはピーナッツアレルギーは治らないと言われていたのでこの薬は非常に意味のあるものかもしれません。
ただ、この記事が示している通り、長期の治療薬の摂取による影響など不明瞭な部分もあるので、まだ必要な研究分野かもしれませんが、少なくとも多くの子供達やその家族の不安を取り去る可能性という点では、非常に意義のある新薬です。
唯一の心配は、もし認可されて市場に出てきたときの値段ですね。
保険が適用されればよいですが、新薬の場合は適用されないことが多いので今後もこのニュースについて追ってみたいと思います。
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