汗をかいた後の一杯のビールのために、トレーニングや試合を頑張っている方々も多いのではないでしょうか。
確かに、汗をかいた後のビールはひと際おいしく、精神的にも充実感に満たされます。しかし、生理学的にはどのような影響があるのでしょうか。
ビールは糖質が含まれておりカロリーを補給できるので、一般的なスポーツドリンクと同じで、ビールは水分補給や回復に良いと思われている方もいると思います。
しかし、ビールというとやはりアルコールの影響を考える必要があります。これまでの研究において、人間の生理学に対するアルコールの影響は多く報告されています。
ここでは、トレーニングや試合後の後のビールが、運動能力や筋肉の効果や回復にどのような影響をもたらすか、そして生理学的にどのような影響を与えるのかを、研究結果に基づいて詳しくみていきたいと思います。
基本的には、アルコールのマイナス面の影響が多い研究が多く発表されていますが、そうだけとは限らないようです。
運動中・運動後の水分補給
運動中は、筋肉を動かすことにより熱が作られ、その熱を体外に放出するために発汗による水分が使われます。発汗した分の水分を補えないと、体内の水分が減り、持久性と耐久性の両パフォーマンスの低下が起こり、そしてひどい場合は脱水症状をおこします。
また回復にも悪影響を及ぼします。筋肉が収縮する際に二酸化炭素や乳酸が生れ、これらの疲労物質は血液が循環することにより排出されます。しかし、水分が不足すると血液循環が悪くなり効果的に疲労物質を運搬・排出できなくなります。これがパフォーマンス低下や疲労感の原因となります。
ですので、水分をしっかりと摂取する必要があるというこはこのような理由からなのです。
通常、喉が渇いたを感じた時点ではすでに水分不足と言われているので、運動中はこまめに水分補給する必要があるようです。
ですので、水分を補給するのは2つの理由があります。一つは、体を冷やすためで、もう一つは失われた水分を補給するためです。そのため、運動中や運動後は冷たくて美味しく感じる飲み物が必要と感じるでしょう。
冷たいビールが飲みたくなるのもこのような理由からなのですね。
水分補給のための飲料の種類
水を飲むのが通常ですが、多くのアスリートは、経口補水液やスポーツドリンクの方が効率よく水分補給ができるため、そちらを摂取する人が多いようです。
運動時に推奨される飲料は、胃にたまりにくい組成の飲料です。具体的には、100ml当たり、糖分4〜8gおよび食塩0.1〜0.2gを含む飲料が適当とされています。
これらの組成の飲料が経口補水液やスポーツドリンクとなります。
これらの飲料は、効率よく水分を補給させ、運動時に失われるカリウムやナトリウム(塩分)といった電解質や、マグネシウム・カリウムなどのミネラルを含んでおり、また疲労回復に効率的なエネルギー源であるブドウ糖(糖分)を含んでいます。(糖分の含有濃度が高まると胃にたまりやすくなるので、注意が必要です)
また、飲料の温度は、5〜15℃程度が推奨されていますが、これはパフォーマンスの発揮と脱水症状を防ぐ温度と言われています。あまり冷えすぎていると、逆に胃腸の機能低下を招き、良くないとされています。
ビールとその他飲料との違い
スポーツドリンクには、水分が身体に吸収されやすいようにカリウムやナトリウム(塩分)などの電解質が入っています。
ビールにも塩分が含まれていますが、その量はスポーツドリンクと比べて微量で10分の1ほどとなっています。
ビール一缶(350ml)あたり約14mgに対して、スポーツドリンクは約140mgも含まれています。
そして、電解質濃度が高めに配合されているので経口補水液です。
ビールと水の水分補給効果の違いとしては、水のほうが補給率が優れているということが証明されています。
やはり、アルコールの特性である利尿作用によって、摂取した量以上の水分やミネラルが排出されてしまうので、やはりビールは水分補給、電解質補給という点からみればデメリットのほうが多いように思います。
アルコールのマイナス面
次に、文献をみていってみましょう。
まずは、アルコールのマイナス面の4つです。
マイナス面1:トレーニング前のアルコール摂取は運動能力を低下させる
2015年のNCSA Coachに掲載されたThe effect of Alcohol on Athletic Performanceという論文には、運動前の少量/中量のアルコールの摂取は、パフォーマンスへの低下は明らかで、また持久力が低下することが示されています。
また、上記の2000年のMcgill Universityの研究によると、ごく少量でも血中にアルコールが存在する場合、グリップ力、ジャンプの高さ、200メートルおよび400メートルの走行に悪影響を及ぼす可能性があると報告されています。
また、高強度の運動中に疲労を進める可能性があるとしています。
マイナス面2:トレーニング後のアルコール摂取は回復を遅らせる
2014年にPlosOneに発表されている上記の論文には、たとえ食事(タンパク質や炭水化物)と一緒にアルコールを摂取した場合でも、筋力トレーニング、有酸素運動、そして高強度運動の後の筋肉タンパク質合成(運動後の新しい筋肉細胞の修復と構築のプロセス)が24〜37%減少することが報告されています。
マイナス面3:アルコール摂取は脱水状態になる

アルコールには利尿作用があり、体から水分が失われるだけはなく、塩分や栄養素も尿として排出され、ミネラルバランスも崩れてしまいます。
Livestrong.comの2018年の記事では、トレーニング後には筋肉がすでに脱水状態になっているので、アルコールを飲むと筋肉はさらに脱水状態になり、その結果それらの筋肉の回復が遅れ、本来の目的である身体能力の向上が阻害されてしまうと、栄養士のキャシー・ビョークは言っています。
マイナス面4:アルコールがもたらすスポーツ選手への悪影響
スポーツ選手にとって、怪我や回復の遅れは避けたいものです。
2010年の記事では、アルコールの使用は、認知機能、バランス、および運動制御の低下により、運動時の負傷を引き起こす可能性があると報告しています。
飲酒をしないアスリートの23.5%が負傷するのに対し、アルコールを摂取したアスリートの54.8%が負傷負傷発生率をもたらしましたと言う結果がでています。(P <0.005)
また二日酔いは、運動能力を11.4%低下させ、さらに定期的なアルコール摂取は免疫機能を低下させ、スポーツ関連の怪我による治癒速度を低下させると報告されています。
次にアルコールのメリットに関しての研究の論文をみていきたいと思います。
アルコールのプラス面
次にビールやアルコールの身体へのプラスの効果を考察していきます。
プラス面1:適度に飲むアルコールで免疫力が向上

2012年のMedicineNetの記事によると、ほどほどのアルコール消費量(男性では週に5〜8杯、女性では週に2〜6杯)は、炎症の減少とフリーラジカルの除去により、免疫力を改善し、心臓疾患を軽減すると報告されています。
特に赤ワインが優位で、これはおそらく高レベルの抗酸化物質によるものと言われています。
プラス面2:炎症を抑える
2009年にMolecular Nutrition&Food Researchで発表された研究によると、ホップ(ビールの必須成分)には抗炎症の効果があるようです。研究者は、異なるホップの抗炎症効果を比較し、ビールの形でホップを消費すると炎症を引き起こす化合物を妨害することを発見したとのことです。
プラス面3:認知症発症率を低下させる
2011年にLoyola Universityが発表した、143件の研究論文分析から、ほどほどの飲酒は認知症および認知障害のリスクを大幅に低下させる可能性があると示唆されています。
この143件の研究の中には、1977年に20年以上にわたって365,000人を追跡した調査から、適量の飲酒は認知症やアルツハイマーを発症する可能性が23%低くなったとの報告もあるようです。
プラス面4:アルコールは脳を鍛える
2011年の研究から、 アルコールは少量だと脳にも良い効果があるようです。これはアルコールが認知症の発症を低下させる一つの仮説として言われているものですが、少量のアルコールによる脳にかかるストレスは、運動による脳へのストレスと同様の効果があると言われています。
脳へのストレスがかかると、細胞が強くなり、心的なストレスから守ると考えられており、それが認知症に効果があるのではという仮説を唱えています。
プラス面5:ビールの栄養価は高い?
2000年の「ビールの栄養と健康の研究」によると、ビールにはワインよりも多くのタンパク質とビタミンBが含まれていると発表されています。
またカリフォルニア大学デービス校の醸造科学の教授であるチャーリー・バンフォースは、ビールにはかなりのタンパク質と繊維も含まれていると報告しています。また、ビタミンB、リン、葉酸、ナイアシンに関してはビールがワインより含有量が多いと主張しています。
さらに彼の研究によると、ビールは骨粗鬆症の予防に役立つことを示しており、予備調査では、ビールが腸内の善玉菌を養うプレバイオティクスを含んでいる可能性も示唆しています。
プラス面6:糖尿病のリスクを軽減する

2017年の欧州糖尿病研究協会のジャーナルに掲載された研究では、週に3〜4回飲む人は飲まない人よりも糖尿病を発症する可能性が低いことがわかりました。そして、ビールを飲まなかった人と比較すると、週に1〜6本のビールを楽しんだ男性は、糖尿病のリスクが21%低くなりました。
プラス面7:心臓病のリスクを軽減する

2016年にAmerican Heart Association Scientific Sessionsで発表された予備研究では、6年間で80,000人の参加者を追跡し、節度のある飲酒の場合、心血管疾患のリスクの要因である「善玉」コレステロールのレベルの低下が最も遅いことがわかりました。

また、2012年の調査によると、すでに心臓発作の経験のある男性のうち、ビールを適度に飲んだ男性は、心臓病で死亡する可能性が42%低いということです。
プラス面8:骨を強くする

2013年にInternational Journal of Endocrinologyに掲載されたピアレビュー(査読)では、適度なビールの摂取により男性の骨密度が増加することがわかりました。その原因として、ビールに含まれる骨形成に不可欠なミネラルであるシリコンである可能性と言われています。
プラス面9:虫歯を減らす

2012年のJournal of Biomedicine and Biotechnologyで公開された研究では、ビールが虫歯の原因となるバクテリアの成長を防ぐことがわかりました。研究者は、虫歯と歯周病を促進する細菌にビール抽出物の効果を与えたところ、細菌の活動を阻止することを発見しました。
ちなみに使われたビールはギネスとのこと。
プラス面10:飲酒は長生きにさせる
テキサス大学の心理学者が実施した研究では、適度に飲酒する人は飲酒しない人よりも長生きすることがわかりました。
アルコールに関する面白い参考研究
ここまでみてくると、アルコールの優れた効果のほうが多いように思います。次に、ビールのマイナス面をプラスに変換する面白い視点の研究があったので見てみましょう。
将来はビールがスポーツドリンクよりも優れた回復の飲料になる?

2013年の12月にInternational Journal of Sports Nutrition and Exercise Metabolism に発表された研究では、アルコールによる脱水症状は電解質の含有量を増やすことで弱めることができることを発見しました。
アルコール度数を2.3%に落として塩分を加えると、通常のビールよりも水分補給がしっかりとできる報告しています。
さらに、ビールは植物ベースで大麦、ホップ、酵母が主要な成分であるため、スポーツドリンクにはない天然の栄養素が含まれているといっています。
ビールの原料がアスリートに有用である?

ドイツの2011年の研究では、ビールに含まれるポリフェノールは、強度のトレーニングによって体の免疫機能を低下させる傾向のあるエンデュランスの選手に特に有用である可能性が示唆されました。
この研究ではノンアルコールビールを使用しましたが、マラソンの前の3週間、そして後の2週間、毎日このビールを飲んだ人は、気道感染の発生率が低く、風邪の影響が3分の1少ないことを報告しました。
これは良いニュースですが、ただ問題はこのビールがノンアルコールという点ですよね。要は、ビールがスポーツドリンクのように取り扱われるには、アルコールのほとんどを失うことになるということです。
まとめ
アスリートにとって、アルコールはパフォーマンスの低下、回復の遅れ、脱水症状の誘発、そして怪我をおこす可能性が高くなるということから避けるべきという研究が多くありました。
これは一つの課題に対して、多くの論文が発表されているのでその信憑性は高いのは確かです。
しかし、論文の数は少ないものの、多くのプラスの点が報告されていることも注目するべきと思います。
ただ、プラスの論文の重要な点は、あくまでも「適量のアルコール」ということです。これは、男性では週に5〜8杯、女性では週に2〜6杯ということになります。多くても一日に1杯程度ということでしょうか。
このことから、適量だと身体にプラスの効果があるが、大量摂取は健康に悪影響を与えるということになります。
適度なアルコールが免疫を強化し、脳を鍛えることで認知症の発症を遅らせ、心臓病や糖尿病に防ぎ、さらに骨や歯を強くするということを考慮すると、健康的な量のビールはあなたの人生を豊かにして長寿を望めることが示唆されています。
お酒の成分が、運動後の筋肉に悪影響を与えてしまうことは否定できません。
しかし、決して飲酒を推奨するわけではありませんが、試合後に、仲間と喜びを分かち合うビールやアルコールにまで神経質にはならなくてもよいのではというのが、この記事からの結果になります。
要は何を目的に設定しているかだと思います。もし、運動後の水分補給や筋肉の増強が目的であればビールやアルコールは控えるべきといえます。しかし、リスクを考慮したうえで、適度に飲めば、気分もリフレッシュできて、仲間との絆も深まり、結果身体にもプラスの影響を与えるのかもしれません。
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